2018年2月10日土曜日


「北方関連地域の衣文化交流・釧路市立博物館所蔵アイヌ民族衣服を中心に」
と言う、長〜いタイトルのついた公開研究会へ行ってきました。

釧路市立博物館に所蔵されている、世界最古級のアイヌ民族の木綿衣について
以前、ブログにも書きました。こちら >>
この木綿衣から見えてきた事、解ってきた事について
国立民族博物館 名誉教授の吉村忍先生(写真↑の方です)の解説とお話、
そして、他研究者の方々のパネルディスカッションもありました。
吉村先生は染織がご専門なので、私としてはとても楽しみにしていたし
面白くお話を聴く事ができました。
木綿衣の事は、以前に書いたので今日は別の事を少し書きたいと思います。

この新聞記事にも少し載っていたのですが、
「ロシアの木綿衣二点と同時に収集された品「刀懸け布」(エムシアツ)の
  飾り布に、絞り染め「辻が花」の断片が使用されていた」という内容。
刀を肩から下げる際に使う、帯のようなものです。


イメージとしてこの様に刀を下げています。でもこれ、絵なので参考程度です。
新聞記事に書かれていたものではありません。


アップにすると、着物の下からちらりと紋様の織り込まれた帯が見えます。
この絵には見えませんが、帯の両端に布が付いています。
その布の部分に赤い縫い糸も使われている事が解ったそうで
この糸がウールの糸だ!というお話が興味深かった!
ふーん、だからどうしたの?と、言われそうですが…
それって凄い面白い発見なんですよ。
糸を拡大した繊維を写真で見たのですが
このウール糸(繊維)が何で染められているのか、どんな羊なのか
どうやって入手したのか...使われている布だけでなく、
この様に糸の繊維も、時代など色々な背景を推定するのに役立ちます。
ウールの糸は、今一般に想像するウールではありません。
(羊毛繊維の話を書くと長くなるので省略します)
羊毛は時代とともに変化してきました。
日本と羊の関係も。
一枚の衣や帯から、本当に沢山の情報が見えてきます。

ちなみに、上の絵で身につけている着物や刀は、
多分殆どが交易等で内地から手に入れた物だと思いますが
ちらっと見える帯の部分は、アイヌ民族の人が手で織ったものだと思います。
これも色々な模様や素材が有り、とても面白いものなんですよ〜。

一般に公開された研究会でしたので、やはり内容に限界があるなぁと感じました。
私的には少々物足りなさも残りましたが…
このウール糸のお話が聞けたのと、吉本先生に質問出来たので良かった。
羊毛繊維について最後に吉本先生に直接質問し、少しだけお話できましたが
もう少し専門的なお話、突っ込んだお話をお聞きしてみたいなぁと思いました。

結局、そのウールの糸の年代や詳細のお話はまだよく解らないですが...
木綿衣にしても刀懸けにしても、まだ私には??なところがあります。
切り伏せ縫い(アップリケ)などに使われている古い布や糸、
染料などの時代が解り、それが例えば桃山時代のものだったとしても
だからと言って、イコール、アイヌ民族の木綿衣が桃山時代のものだ
という事にはならないよねぇ?と言う疑問...。
使われている布などが桃山時代のものでも、
北海道に伝わって来たのはいつなのか?その時間差は?。
逆に、使われている材料の中で一番新しい時代のものは何?
そしていつ頃のものかなぁ?(眠れなくなりそう〜、笑)
(ロシアの博物館にある最古の木綿衣は1775年収蔵、これと釧路博物館の衣が同時期かも?という話)

最後に、私達は進化していると思っているかもしれないけれど
退化(劣化)している、最悪の状態だとのお話が有りました。
染織や工芸、美術を専門にしている者には、痛い程解る話。
早く安く簡単に大量にものを作るのが進化なのか?
昔の人の手の仕事を見ると、知恵や工夫、
今では再現出来ない超絶技巧が見られます。
便利なものを生み出す知恵は進化でもあるかもしれないけれど
手間を省いたものばかりに囲まれて生きている今の時代の人間は
考える事も手を使う事も昔の人より退化して(劣って)いるのでは。
手の込んだ時間を要するものの中に有るものは何でしょう。
これは実際にそういう仕事に携わった人は身を以て体感できるけれど
そうでない人には頭で解っても実際には解らない事かもしれないなぁと。
作る事をしなくても、もしそれが理解できたなら、
自分が物を買う時にもどういう背景で作られたものか考えて買うかもしれない。
何にお金を(代価)払うべきなのかとか。
昔の人は不便で何も無くて大変だったろう...と言うのは現代人の勝手な思い込み。
本当に幸せなのは…。


2 件のコメント:

そみ さんのコメント...

(退化・劣化の話について)そうですよねー。わたし今は消費者でしかないなー。
生産者の立場になった時の充実感は最近いつ感じたっけ…?

十月のノオト さんのコメント...

作る人、使う人がすっかり分離してしまってますね、今は。
自分達自らで、作って使うと言う事は=物事をよく考える事 でもあるなと思います。
充実感、達成感、物への思い…そういうのを実感した上で
消費者であるといいのでしょうけれどね。