深夜にカーテンの隙間から外を覗くと
湿った雪が降り、うっすらと地面が白くなっていました。
先週の満月も、昨夜はお留守。
窓の外に月を見ると思い出すアンデルセンの話。
「絵のない絵本」は、月が昔々からずっと地球の上を周り続け
世界各地の屋根を照らし俯瞰してきた出来事を
せせこましい路地のひとつに詫び住まいする書生(貧しい絵描き)の
窓辺へ毎夜 顔を出しひとつずつ語って聞かせるのです。
第二十三話
「私はチロルを見下ろした」と月は言った。
「私は鬱蒼としたモミの木々に際だって黒い影を岩山に投影させた。
私は聖クリストファーが幼子イエス・キリストを肩にしているのを見た。
それはそこの家々の壁々に描かれていた。
巨大な、地面から屋根に届くほどの。
聖フロリアンは燃える家々に水を注いでいた。
そしてキリストは、血だらけになって、路傍の十字架にかかっていた。
それは新しい世代にとっては古い映像である。
それなのに私は見て来た、それが掲げられ、次から次と跡に続くのを。
高く山の岩場にかかっている、燕の巣のように、淋しい尼僧院が。
ふたりの尼さんが塔の上にいた。そして鐘をついていた。ふたりとも若かった。
だからその視線は山々を超えて飛んでいった、外の浮き世へと。
一台の旅馬車が下の街道を走っていた。馬車のラッパが響いた。
あわれな尼さんは同じ思いで視線を馬車に釘付けた。年若の尼の目には涙があった。ラッパの響きはだんだん弱くなっていった。
尼僧院の鐘がラッパの絶え絶えの響きを打ち消した...。
Hans Christian Andersen
山野辺五十鈴:訳
---
By ヒエロニムス・ボス - collectie.boijmans.nl : Home : Info : Pic, パブリック・ドメイン, Link
聖クリストファー:クリストフォロスChristophoros, 原意はギリシア語の「キリストを背負うもの」
3世紀のローマ皇帝デキウスの時代に殉教したというキリスト教の伝説的な聖人。
ある日、小さな男の子が川を渡りたいとレプロブスに言った。
お安い御用と引き受けたレプロブスだったが、川を渡るうちに男の子は
異様な重さになり、レプロブスは倒れんばかりになった。
あまりの重さに男の子がただものでないことに気づいたレプロブスは丁重にその名前をたずねた。
男の子は自らがイエス・キリストであると明かした。イエスは全世界の人々の罪を背負っているため
重かったのである。川を渡りきったところでイエスはレプロブスを祝福し
今後は「キリストを背負ったもの」という意味の「クリストフォロス」と名乗るよう命じた。
wiki >>
聖フロリアン:聖フロリアヌス は、カトリック教会の聖人。ポーランド、リンツ、
煙突掃除人と消防士、石けんの釜炊き人の守護聖人。
ローマ皇帝ディオクレティアヌスとマクシミアヌスの時代、
現在のドイツ・バイエルン東部の帝国軍司令官であった。
彼の軍務に加えて、消防隊を組織する責任を負っていた。
wiki >>
---
「若い頃の一時アンデルセンが住んでいた屋根裏部屋」の写真を見ました。
この「絵のない絵本」に出てくる(主人公)貧しい絵描きが
暮らしていた屋根裏部屋は、絵が無いので想像でしかないけれど
まさしく、アンデルセンが住んでいた部屋のよう!と思いました。
狭くて窓からは灰色の空と煙突ばかりが見えて。でも屋根裏の特権で月に近い。
どこにも行けず狭い部屋に住んでいるけれど
遠い遠い遥か昔、イエスキリストが幼子の頃から!笑)いや、そのもっと前から!?
世界の事をずーっと見続けてきた月の話を毎夜聞ける。
雨の日や曇りの日、月はやってこないけれど。
何処にも行けなくても、いや行けないからこそ?!想像は膨らむ。
目に見える物質ではない想像や記憶の存在は、
狭い屋根裏部屋でも、砂漠の中にでも...何処へでも持って行って
心の目で蓋を開けられる大切なもの。
絵のない絵本は色々な翻訳本が出ているのだけれど
私の持っているのは欧文直訳体(原文のことばの配列・再現にこだわったもの)
倒置法と体言止めが多い...。良いのか悪いのか、好き嫌い分かれる...。
第二十三話も、倒置法と体言止めが多用されていて、
微妙な言い回しがあり、うーん...な感じもするのだけれど
でも気に入っているお話です。
チロル行った事はないけれど!笑、渓谷の風景が浮かんできます。
ところで...上の絵ですが、
Hieronymus Bosch(1450-1516)ヒエロニムス・ボス
15世紀に活躍した(初期フランドル派の)ネーデルランドの
ルネサンス期の画家ですけれど、シュルレアリズムを思わせる作風。
ブリューゲルも影響を受けたらしいけれど、確かによく似ていて面白い。
キリストを背負ったクリストフォロスの背景の中に小さく描かれている
犬?熊?魚?木の上の壷?家?...幻想的かつ怪異な作風。
一見、可愛い熊?だけど...よくよく見ると...!! シュールですー。
(拡大して見てください)
ところで...上の絵ですが、
Hieronymus Bosch(1450-1516)ヒエロニムス・ボス
15世紀に活躍した(初期フランドル派の)ネーデルランドの
ルネサンス期の画家ですけれど、シュルレアリズムを思わせる作風。
ブリューゲルも影響を受けたらしいけれど、確かによく似ていて面白い。
キリストを背負ったクリストフォロスの背景の中に小さく描かれている
犬?熊?魚?木の上の壷?家?...幻想的かつ怪異な作風。
一見、可愛い熊?だけど...よくよく見ると...!! シュールですー。
(拡大して見てください)